抽斗の釘

小説、散文、文章、短編

2023-07-01から1ヶ月間の記事一覧

歌声

霧雨の向こうから水銀のひと塊が音もなくすり抜けてくる。 山間の車道をなめらかになぞりながら、それはやがて新緑の下へと滑り込んだ。そのさい梢が傘となって霧雨が途切れ、水銀は正体をあらわした。旧型のマーチボレロである。 ボレロは濡れて光るアスフ…