抽斗の釘

小説、散文、文章、短編

2022-06-01から1ヶ月間の記事一覧

浮気者

金曜日は私も早引けになるのだから、一緒に夕飯でも作り一週間の労働を共に労い合いたい。 有里子はそんな風に苛立ちながら、冷えた夏野菜を叩き切っていた。 結婚して三年になる。夫の倖一は今日も外に遊びに出ていた。 しかしそれを特段悪いとは思わない。…

生命の時報

彼は疲れていた。 平日は週末の為と思い、週末は平日の為と思う。それが死ぬまで続くのか。その間も若い時間はみるみる過ぎていく。 なんのための命だろうか。 生活費に同額と消える給与。得て失うその繰り返し。知らない他人のための業務も繰り返し生まれ消…

安らぎの石

安らぎの石 インターネット回線業者の営業職であった降矢は、給与の不満から独立を決意した。 同僚より成果を上げているにもかかわらず、それが正当な評価に反映されないのだ。 降矢は自分のクリーンな営業を誇りとしていた。 成績の水増しもしなければ顧客…