抽斗の釘

小説、散文、文章、短編

2022-04-01から1ヶ月間の記事一覧

ラブホテル・ブラザー

潤う、ということにはひどく痛みを伴う。 清太は唾液を飲み込みながらそんなことを思った。 喉に垂れていった唾液が喉仏のあたりで染み、しわりと痛んだのだ。 乾燥した春の空気は、喉の側面を荒廃の土地のようにヒビ割れさせている。 そこに水が入り、肌は…

満開

この日、四月一日は入社式で、美桜はその会場へと向かっていた。 東大路通りを北へ歩く。そして度々、苦々しい瞳を青空へ向けた。もたないと思っていた桜は、ちょうどこの時に絶頂を迎えていた。 美桜が桜を疎ましく思うのは、群衆を思うのに近かった。断り…