抽斗の釘

小説、散文、文章、短編

2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧

魑魅

加賀慎矢と藤崎里留が逢引を始めたのは高校三年の初夏だった。 私立の男子校の特進クラスだった二人は、帰りの電車が同じ方向ということから、いつしか遊ぶ仲になって、授業や膨大な宿題から逃避するように下車し、ファミリーレストランやカラオケ、ゲームセ…

加密列

金がなく飢え死にしそうになれば、私も生ごみを漁り、犯罪を選ぶのだろうか。 いや、何もせず、死んでいくほうがよいと、点けっぱなしの報道を横目に薫は思った。 家賃が払えず、光熱費も払えない。ただ床に寝そべって、払え払えと急き立てられ、それでも寝…

万年茸

日が暮れるのが早くなった。 絢菜はふた吸いばかり吸った煙草を灰皿へ落とし込み、駆け足のところを早々、赤信号に止められた。それで手持無沙汰に、そんなことをあらためて思った。 目の前の交差点では帰宅時間とも相まって、乗用車やバス、タクシーなどの…

蟷螂

亮平は大学に向かうべく地下鉄に乗り込んだ。 昼前の時間であるのに、車内はまずまず混んでいて、席は座れないほど埋まっていた。そこには彼と同じような学生をはじめ、他は仕事だろうか、スーツ姿の大人もちらほらと姿が見える。彼はふわりと車両内を見渡し…