抽斗の釘

小説、散文、文章、短編

2019-03-01から1ヶ月間の記事一覧

夜のどんどん

虎の天使が腕を組んで見下ろしてきます。わたしは眠れない体をごろごろ動かしながら、時計のコチコチを聞いています。目を閉じると、黒鬼が、どろどろ動きます。腕が、足が固まってきました。さあ、夜のどんどんです。 わたしは家族と、白のハイエースに乗っ…

楠木の森

……背の高い楠木が、さわさわと木々の上で葉を揺らした。 ……或る森の、或る木々の隙間に彼女は立っている。 日常で、自分の言葉を探すのは難しい。 ここは深い深い、茂った木々の中で、葉や枝の隙間から、午前のさわやかで活き活きとした日がさしている。わた…

春の風

梅の花の匂いが、春の日和に暖まって香る。花は満開から少し過ぎ、細く歪な枝の間で熟しては、色あせて垂れ始めている。垂れた梅花の間を、羽虫が衝動にまかせ、日和に漂っている。平日の穏やかな中、一人の青年が住宅街を歩いていた。冬物のコートは幾分暑…