抽斗の釘

小説、散文、文章、短編

眠りの国

先輩は仕事中に時々眠っています。キーボードに手を置きながら、こくこくと。 先輩は会議中でも眠ってしまいます。腕を組んで、目をつむって考えるふりをして、そのまま、こくこくと。 ある日、わたしは通勤の電車で先輩と乗り合わせました。座席に隣り合っ…

相合傘

パタパタと、傘を鳴らす雨の音が続く。傘のなか、わたしの横には、夜の街に映える彼女の白く整った顔があった。相合傘。‥その白い顔に映える濃いめの化粧。口紅。美人だな、とわたしは思う。小さな折り畳み傘からは、彼女の黒革の上着がはみ出ており、雨に肩…

仰向けの世界

彼は勤めの帰路の電車、乗合せた同僚と鬱病について話した。 彼も同僚も然る病の治療中で、服用する薬や副作用について和やかに話した。 車両は動き出し、二人は肩を並べ座席に着いた。ゴトゴトと鈍行は夕刻の街を抜けて行く。 話すと二人の治療薬は異なった…

熱帯魚

夏に金魚を死なせ、次の冬には熱帯魚を眺めていた。夏祭りで掬ったものであったが、6尾は月日を追うごとに減り、次の夏に最後の1尾が浮いた。6尾とも庭の同じ所に埋め、線香を上げた。その度に、土に溶け、骨の様を思い描いた。 黒の壁紙に、青の背景を施し…